アニェス・ベラドンヌ劇中で新聞記者【フィリップ・マンソニエ】を演じる坂本岳大が
共演者を取材する特別対談企画!






坂本 末次さんは再演になるわけですが(※末次さんは2004年のアニェス・ベラドンヌ初演時も同じジゼル役で出演している)、作品の印象、ご自分の役への印象など覚えていらっしゃいますか?
末次 とにかく『難しい』でした。
坂本 それは、作品としても役としてもですか?
末次 作品も役もです。ようするに台詞通りじゃないから。特に演出の要望がそうだったんですけど、台詞ではどう考えても皮肉や嫌味にしかとれないのに、中身はぜんぜん違うんですよ。たとえば、「可愛い猫ちゃん!」と思って台詞を言ってくれと演出される台詞が、嫌味っぽい台詞だったりするんですよ。だからしょうがないから初演の時は、心の中で『可愛い猫ちゃん!』って言って、台詞を言っていたんです。でも今回の再演でだいぶ解ってきました。

坂本 では、初演の時に稽古に入る前と、メンバーが変わった今回の再演の稽古に入る前は、心積もりは大分違いましたか?
末次 大分違います。今回再演に入るのに、とにかく心がけたのは初演を忘れること、初演を引きずらないことだったので、それは成功したと思います。今回の役者さん、ガラっと違いますから。
坂本 そうですよね。あとこの役のことなんですけど、今回6人という割と少ない登場人物の中で、それぞれ役としての職業や立場が違うわけですが、芝居の中での役割というかポジションも違うじゃないですか。衣装係のジゼルっていう役はどのようにお考えですか?
末次 ジゼルは33年間、アニェス・ベラドンヌに付いて衣装係をしていたわけじゃないですか。だからものすごくアニェスを尊敬して、愛していないといけないでしょ。ということは、ほかの登場人物が「強い女性だ」なんだと言っても、やっぱり同じ女性として、彼女の弱さとか優しさとかを全部キャッチしている人で、見かたによれば、ひとりの人間の表と裏だという風に捉えてやっているんです。
役としては、登場人物の中で一番楽な役だと思います。というのは、やることが沢山あるから。時々自分が役者なのか衣装係なのか忘れるぐらいやることがいっぱいあります このジゼルの役はみんなが「この役やりたい」って言う役なんです。男の人も「この役やりたい」って。だからプレッシャーです。
坂本 なるほど。では話題を変えて。いわゆるバックステージもののお芝居なわけですが、いままでの末次さんの演劇人生の中で、楽屋にまつわるエピソードというか思い出みたいのがあったら聞かせていただきたいのですが。
末次 ありますよ、ひとつ大きいのが(笑)。絶対に持たなくてはいけない小道具を忘れて舞台に出たんです。舞台の上でほんと0.0何秒、取りに帰ろうか、無対象でやろうか考えて、結局楽屋に取りに行ったんです。楽屋にいた人がみんな驚いていました(笑)
坂本 (笑)
末次 舞台にいるはずの人が楽屋にいるわけですからね(笑)あれは忘れません。
坂本 うわー(笑) 今回、役の上では俳優の役ではなく、衣装係の役じゃないですか。作品の中で、ジゼルにとっての楽屋って場所は、どんな所ですかね?
末次 ジゼルにとっての楽屋は、非常に微妙なところで、『疲れる我が家』みたいな感じがするんですよ。たぶん、家に居る時間より、楽屋に居る時間のほうが長いから。ここのことは隅々までわかっているし、それでも仕事場でもあるし。
坂本 では、女優・末次一恵としての楽屋はどんな所ですか?
末次 普通のおばさんから、役者に切り替わる場所ですね。
坂本 舞台は『非日常』と言ったりすることがあるじゃないですか。現実世界の日常と、虚構というか『非日常』の舞台を乗り換えていく駅というか、そんな感じですか?
末次 そうそう。だから私は稽古のときも、稽古場に入る前に、ワンクッション置くんですよ。時間があるときは喫茶店でコーヒー飲んだり。そのときにおばさんから役者に切り替えていかないと、とてもじゃないけどできませんね。
坂本 スイッチングする時間というか場っていうのが大切なんですね。
末次 大切ですね。
坂本 色々な役者さんがいるじゃないですか。たとえば楽屋でおとなしく集中しているタイプとか、馬鹿話してたかとおもうと、そのままポンと舞台に出てしまったほうがいいって言うタイプの人だったりとか。ご自身はどうですかね?

末次 集中ですね。馬鹿話していて、そのままなんていうのは絶対に無理です。
坂本 それもやっぱり、スイッチングの問題ですか?
末次 ええ。若い頃からの習慣ですかね。昔は稽古場に1時間から2時間前に行っていました。役に入るのにそれぐらい時間が必要だったんですね。五感とか内臓の状態とか、抽象的で解りにくいかもしれませんが、血液の流れとか、それを役に持っていくのに若い頃は1時間ぐらいの集中が必要だったんです。それがだんだん短くなってきて、今はスッと入れるようになりましたけどね。
坂本 その作業っていうのは、イメージを大切にするっていうことですか?それとも、もっと具体的なことがあっありするんでしょうか?
末次 自分でもよく解んないんですけど、イメージではないと思うんですけど…『感じる』んですよね。
坂本 『禅』みたいのものですか?
末次 どうなんでしょうね。でも内面から感じていくことですね。
坂本 ああ、内側から湧き出てくるものですね。
末次 ええ、それが無いと出来ませんね。
坂本 自分も役者ですから、興味がある所なんですけど。色々な役者さんがいて、人それぞれだと思うんですが、今回の出演者はたとえば劇団NLTの木村さんがいたり、テアトル・エコーの安原さんがいたり、劇団昴の小山さんがいたりして、いろんな劇団の道筋を歩んできた人が集まっているわけですが、一緒に芝居作りをしてみてどうですか?
末次 「ほぅ」と思うことがいっぱいありますね。自分の芝居作りと違う段取りがあったりして。非常に興味があります。
坂本 演出もいろいろなやり方を持っている役者と対峙しなければならないし、役者のほうも色々な感性を持った役者と対峙しながら、違ったチャンネルを持った演出とも向き合わなければならない。そこが面白くもあり難しくもあるわけですが、理屈で言えばとても綺麗なことですけど、実際役者の気持ちとか身体っていうのは「違うこと」とのすり合わせっていうのはとても大変なことじゃないですか。その大変な時はどうしますか?
末次 私、あまり大変と思ったことがないんですよ。日常には色々な人がいるわけでしょ?それに自然に対応しているわけだから、舞台もそれと同じ状態なんで、あまり大変と思ったことはありません。
坂本 色々なものが日常と繋がっているという前提から発想がきているということですね。
末次 ただ、ナチュラルにはやらないようには気をつけています。
坂本 なるほど。ありがとうございます。では最後にお客様にメッセージを。
末次 フランスの演劇っていうのは、日本ではあまりメジャーではないのですが、是非観ていただきたいというのと、ジャン・ポール・アレーグルさんの本というのは、何か一つ普通の芝居と違うものがあるんですよ。一見リアリズム演劇のように見えて、ジュールなところもある芝居だから、お客さんも戸惑うこともあると思うし、役者も戸惑う場合もあるし、そういうところを楽しんで観ていただけたらなと。とにかく非常にいい芝居です。
坂本 ありがとうございました。本番もよろしくお願いいたします。
末次 こちらこそよろしくお願いします(笑)

一筆御礼

唯一、初演から続投の末次さん。
非常にストイックというか、自他共に厳しい方です。
実は私事で恐縮ですが、この方とは大分以前からお付き合いがありまして。
僕が高校生でまだ学生服着ていた頃からですから、そりゃあもう昔?!です。
なので、稽古場にいても家族に仕事場見られているような気恥ずかしさがあったりして、
今回の取材もなんとなく恥ずかしいようなやりにくいような…
もっとも、末次さん自身は全くそのような事は眼中にない様子。
僕の一人相撲でお恥ずかしい限り。
とはいえ、舞台でご一緒するのは今回が初めてですから、
楽しい日々を過ごさせてい ただいております。
唯一、常に楽屋に居続ける役、衣装係・ジゼル。
それはつまり誰よりも楽屋を知っていて、誰よりもこのドラマを静観している人物。
そうです、この劇は「楽屋」を舞台にしたドラマなのです!!
皆様にはこの「楽屋」がどのように写るのでしょうか?お楽しみに!!

坂本岳大

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